蒸留計算では蒸留塔の各段の組成、温度を計算します。
ここでは、Excelを使用した蒸留計算方法-リラキゼーション法(緩和法)-を紹介します。
この動画は、ここで紹介するリラキゼーション法による蒸留計算のデモです。デモのため、収束に時間を掛けていますが、実際はより短い時間で収束します。
1.蒸留計算法
蒸留計算法には二つのアプローチがあります。
一つはフィード流量、フィード組成、製品組成、還流比を与え、必要な理論段数を求める方法です。これは設計型の問題であり、有名なMcCabe-Thiele法がこれに該当します。
もう一つは、フィード流量、フィード組成、還流比、理論段数などを与え、製品組成を含む塔内の組成分布や温度分布を求める方法です。これは操作型の問題であり、コンピュータを使用した計算が主にこれに該当します。
ここでは、非定常状態から導かれた非線形微分方程式を解き、時間無限大とした時を解とするリラキゼーション法を紹介します。
参考 平田光穂(監修), 佐野 司朗(編), “JACEデザインマニュアルシリーズ 蒸留(第1巻)”,
ジェイス・リアサーチセンター(1978)
1-1.連続蒸留塔の例
コンデンサー、リボイラーを含め理論段数10段でベンゼン(1)-トルエン(2)の2成分の分離を行う蒸留塔を例として使用します。
下記の仮定のもと計算を行います。
下記の仮定のもと計算を行います。
- 各成分のモル蒸発潜熱は等しく、従って各段の蒸気量液量は濃縮部、回収部で一定とします。
- フィード液は、沸点の液体で供給され、従って濃縮部、回収部の蒸気量は同じとなります。
操作条件
- フィード(F) \(10kmole/h\)
- フィード組成 \(x_{F,1}=0.6, x_{F,2}=0.4\)
- 留出量(D) \(6kmole/h\)
- 還流流量 \(20kmole/h\)
- 圧力 \(760mmHg\)
液量と蒸気量の関係
- \(V_2 = L_1 + D\)
- \(V_2=V_3=V_4=V_5=V_6=V_7=V_8=V_9=V_{10}\)
- \(L_1 = L_2 = L_3 = L_4 = L_5\)
- \(L_5 + F = L_6 = L_7 = L_8 = L_9\)
2. リラキゼーション法
2-1. 物質収支式
リラキゼーション法は非定常状態から導かれた非線形微分方程式を解き、時間無限大とした時を解とする方法です。
各段の物質収支式からの非線形微分方程式は次のようになります。
- \(\frac{dH_{1,i}}{dt} = V_2 \cdot y_{2,i} – L_1 \cdot x_{D,i} – D \cdot x_{D,i} \)
- \(\frac{dH_{2,i}}{dt} = V_3 \cdot y_{3,i} + L_1 \cdot x_{D,i} – V_2 \cdot y_{2,i} – L_2 \cdot x_{2,i}\)
- \(\frac{dH_{3,i}}{dt} = V_4 \cdot y_{4,i} + L_2 \cdot x_{2,i} – V_3 \cdot y_{3,i} – L_3 \cdot x_{3,i}\)
- \(\frac{dH_{4,i}}{dt} = V_5 \cdot y_{5,i} + L_3 \cdot x_{3,i} – V_4 \cdot y_{4,i} – L_4 \cdot x_{4,i}\)
- \(\frac{dH_{5,i}}{dt} = V_6 \cdot y_{6,i} + L_4 \cdot x_{4,i} – V_5 \cdot y_{5,i} – L_5 \cdot x_{5,i}\)
- \(\frac{dH_{6,i}}{dt} = V_{7\cdot} y_{7,i} + L_5 \cdot x_{5,i} – V_6 \cdot y_{6,i} – L_{6\cdot} x_{6,i} + F \cdot x_{F,i}\)
- \(\frac{dH_{7,i}}{dt} = V_8 \cdot y_{8,i} + L_6 \cdot x_{6,i} – V_7 \cdot y_{7,i} – L_7 \cdot x_{7,i}\)
- \(\frac{dH_{8,i}}{dt} = V_9 \cdot y_{9,i} + L_7 \cdot x_{7,i} – V_8 \cdot y_{8,i} – L_8 \cdot x_{8,i}\)
- \(\frac{dH_{9,i}}{dt} = V_10 \cdot y_{10,i} + L_8 \cdot x_{8,i} – V_9 \cdot y_{9,i} – L_9 \cdot x_{9,i}\)
- \(\frac{dH_{10,i}}{dt} = L_9 \cdot x_{9,i} – V_{10} \cdot y_{10,i} – W \cdot x_{W,i}\)
\(H_{P,i}\) は \(P\) 段、\(i\) 成分のホールドアップ量です。
これをオイラー法で数値積分し、定常状態( \(\frac{dH_{P,i}}{dt} = 0\) )の解を得ます。
2-2. Excelでのリラキゼーション法の計算
STEP1
理想系気液平衡計算で作成した最終のブックを使います。
このブックに新しくシートを追加し、名前を”計算”とします。理想系気液平衡計算のシートは”気液平衡計算”とします。
簡易的な方法として、\(y_{1}\)と\(T\)を表す\(x_{1}\)の多項式を作り、これから計算する方法もあります。
STEP2
“計算”シートに操作条件その他を入力します。
STEP3
温度 \(T\) 及び \(y_1\) は、”気液平衡計算”シートで計算されています。
これを計算シートで参照します。
STEP4
微分値\(\frac{dH_{P.i}}{dt}\)の計算です。
1段(コンデンサー)、5段(フィード段)、10段(リボイラー)その他で別々の数式となります。
フィード段(5段)以外では、25行目は24行目をコピーします。
STEP5
\(H_{P,i n}\) の更新です。
オイラー法で新しい\(H_{P,i n+1}\)を計算します。
\(H_{P, i n+1}=H_{P, i n}+\frac{dH_{P, i n}}{dt} \Delta t\)
STEP6
この新しい\(H_{P,i n+1}\) (26,27行)を元の\(H_{P,i n}\) (17,18行)にコピー、貼付けを繰り返すことにより、計算が進み定常解となります。
ここでは、反復計算を使います。
セルD10に計算SWとして0(=初期化)、0以外(=反復計算)を入力します。
STEP7
反復計算の設定画面は、ファイル → オプション → 数式で出てきます。
最大反復回数を5,000程度に設定します。
この計算の場合、\(\Delta t=0.01\)の時約5,000回で定常解となります。
STEP8
これが最終結果となります。