Excelによる蒸留計算 リラキゼーション法 2 製品組成制御

リラキゼーション法による蒸留計算は、理論段数、フィード量、フィード組成、塔頂製品流量、還流量をインプットし、塔頂製品組成、塔底製品組成が得られます。

しかし、蒸留計算では希望の製品組成を達成するための還流量を求めたい場合があります。

リラキゼーション法は、非定常状態の物質収支式(微分方程式)をオイラー法で数値計算し、定常状態(微分値=0)を解としたもので、一種のダイナミックシミュレーションとも言えます。

そこで、リラキゼーション法とPID制御を組み合わせ、決められた製品組成とするための還流量を計算する方法を紹介します

目次

1.PID制御

プロセス制御において最も使用されている制御方式です。

ここでは、微分動作を除いたPI制御を使います。

下記の式により、\(PV\)値(測定値)を\(SP\)値(設定値)とするための\(MV\)(制御出力)を求めます。

\(MV_{n+1}=MV_n+\Delta MV_n\)

\(\Delta MV_n=K_p \left( (e_n-e_{n-1}) + \frac{e}{T_I} \Delta t \right)\)

\(e_n=SV_n-PV_n\)

\(SP\)値が一定なら、\(\Delta MV_n\)は更に次のようになります。

\(\Delta MV_n=K_p \left( (-PV_n+PV_{n-1}) + \frac{e}{T_I} \Delta t \right)\)

ここで、\(e\)は偏差、\(K_P\)は比例ゲイン、\(T_I\)は積分時間、\(\Delta t \)は制御周期を表します。

2.連続蒸留塔の例

コンデンサー、リボイラーを含め理論段数10段でベンゼン(1)-トルエン(2)の2成分の分離を行う蒸留塔を例として使用します。

下記の仮定のもと計算を行います。

  • 各成分のモル蒸発潜熱は等しく、従って各段の蒸気量液量は濃縮部、回収部で一定とします。
  • フィード液は、沸点の液体で供給され、従って濃縮部、回収部の蒸気量は同じとなります。

操作条件

  • フィード(F) \(10kmole/h\)
  • フィード組成 \(x_{F,1}=0.6, x_{F,2}=0.4\)
  • 留出量(D) \(6kmole/h\)
  • 還流流量 \(20kmole/h\)
  • 圧力 \(760mmHg\)

液量と蒸気量の関係

  • \(V_2 = L_1 + D\)
  • \(V_2=V_3=V_4=V_5=V_6=V_7=V_8=V_9=V_{10}\)
  • \(L_1 = L_2 = L_3 = L_4 = L_5\)
  • \(L_5 + F = L_6 = L_7 = L_8 = L_9\)

製品組成

  • 塔頂製品組成(ベンゼン) \(x_{D,1}=0.98\)
  • 塔頂製品組成(ベンゼン) \(x_{W,1}=0.10\)

3.EXcelによる計算

Excelによる蒸留計算 リラキゼーション法”で作成したブックを使用します。

3-1.製品抜出し量の計算

製品組成での製品流量\(D\)及び\(W\)を下記の連立方程式から求めます。

\(D+W=F\)

\(D\cdot x_{D,1} + W\cdot x_{W,1} = F\cdot x_{F,1}\)

ここではExcelの行列計算を使用します。

3-2.PI制御

Setp1

塔頂の\(x_{i}\)を\(PV\)とします。

これを還流量で制御します。

Step2

\(- \mathrm{PV}_n + \mathrm{PV}_{n-1}\)は、次のようになります。

\(- \mathrm{PV}_n + \mathrm{PV}_{n-1} = -\frac{dH_{1,1}}{dt} \times \Delta t\)

Step3

比例ゲイン\(K_p\)、積分時間\(T_I\)を入力します。

Step4

\(MV\)の初期値を0.1としておきます。還流量\(R\)は\(10kmole/hr\)となります。

Step5

\(MV\)の計算ですが、最初の500回までは偏差\(e\)が大きいため、初期値のままとしておきます。(手動運転)

それ以降は、\(\Delta MV\)を計算し、前回の値にプラスします。(反復計算)

Step6

\(MV\)に上限1、下限0.01を設定します。

Step7

この\(MV\)から還流量\(R = M V \times 100\)を決めます。

3-3 計算

計算SWを1にすると計算が始ります。回数20,000回(30秒)位で解が出ます。

3-4 計算経過を残す

反復計算では、計算の経過が残りません。そこで、次のような工夫をします。

C38から下に、経過を残したい回数を指定します。この場合は、20回毎に残すことにしています。

D35に残したいデータを指定します。この場合、D19すなわち塔頂のx1(塔頂製品組成)です。

D38に、=IF(C38>$D$11,$D$35,D38)と入力します。この式の意味は次の通りです。

記録したい回数が現在の回数より大きければ$D$35すなわち最新の値を表示し、それ以外ではそのセル(D38)の値を保持するというものです。

これにより、経過を残すことが可能になり、制御状態のグラフを描くことが出来ます。

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